【2024年版】2022年改正の発信者情報開示請求のポイントと現状を弁護士が解説
この記事では、改正のポイントに加えて、日々開示請求を行っている現場の弁護士の視点からメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
発信者情報開示請求とは?
ネット上で誹謗中傷等を行った投稿者の情報(氏名・住所・電話番号など)を開示するよう求める手続き。
投稿者の情報を知ることで、匿名の投稿であっても発信者を特定でき、損害賠償請求などが可能となります。
なぜ「プロバイダ責任制限法」が改正されたのか?
発信者情報開示請求は、2001年に制定された「プロバイダ責任制限法」で定められた制度です。
当時はSNSも発達しておらず、主に想定されていたのは巨大匿名掲示版での誹謗中傷等でした。
ところが現在は、
- X(エックス、旧Twitter(ツイッター))、Instagram(インスタグラム)、Facebook(フェイスブック)、YouTube(ユーチューブ)といったSNS
- 匿名掲示板(5ちゃんねる(5ch)・ホスラブ(ホストラブ)・爆サイ.comなど)
- Googleマップの口コミ
- 転職サイト
- ブログ
こういった様々な場所で誹謗中傷等が行われており、重大な社会問題にもなっています。
その反面、改正前のプロバイダ責任制限法には様々な問題があり被害者救済が不十分だったので改正が行われました。
当事務所では改正前から発信者情報開示請求を多数行っており、改正後も引き続き多数の請求を行ってきました。
改正法によって確かに一定程度前進したものの、世間で言われるように手続きが劇的に楽になったかと言うと、残念ながらそんなことはありません。
その理由を、改正法のポイントと共にわかりやすく解説します。
改正法の3つのポイント
- 提供命令の創設
- ログイン情報も開示の対象に明文化
- 非訟事件化
【ポイント①】提供命令の創設
提供命令の創設が、「これまで発信者情報を開示するために2回の裁判手続きが必要だったものが1回になった」と言われる理由です。
これまでの手続き
- コンテンツプロバイダ(X(旧Twitter)やInstagramなどのコンテンツサービスを提供する事業者)からIPアドレスなどの情報の取得する
→任意で開示されることは稀なので、仮処分の申立が必要 - 1で取得した情報からアクセスプロバイダ(ソフトバンクなどの通信事業者)を特定し、そのアクセスプロバイダに対して、改めて当該通信事業者の契約者である発信者の情報開示を求める
→任意で開示されることは稀なので、訴訟提起が必要
この2段階の手続きが必要でした。
改正後の手続き
しかし改正によって提供命令が創設され、コンテンツプロバイダに対して、どのアクセスプロバイダを利用しているかの情報提供を裁判所が命令できるようになりました。
ですから、実質1回の手続きで済むようになったと言われるわけです。
ところが、世間で言われるほど楽になったかと言うと、実際はそんなことはありません。
その理由は2つあります。
1つ目は、提供命令を利用しても、結局は改めてアクセスプロバイダにも開示を求める申し立てが必要なため、結局2回の申し立てが必要だからです。
コンテンツプロバイダに対する提供命令により、例えばアクセスプロバイダがKDDI等と判明しても、改めてそのKDDI等に対して発信者情報開示命令を求める裁判を起こす必要があります。
この申し立ては、提供命令を出した裁判所と同じ裁判所に行うので統一的な判断はされますが、結局は2回の申し立てが必要です。
2つ目は、そもそも提供命令に従わないコンテンツプロバイダが多いのが現状だからです。
Google、雑談たぬき、Yahoo!関連は提供命令に応じますが、1番期待されていたX(旧Twitter)が提供命令に全く従わないので、そもそもその存在意義まで疑われるようになっています。
NTTドコモに至ってはアクセスプロバイダでありながら、提供命令による開示命令に従わないという暴挙に出ています。
ですから、せっかく改正が行われたものの使い勝手が非常に悪いのが現状です。
今後、各事業者がきちんと命令に従うよう運用されることは最低条件として、さらなる法改正が期待されます。
【ポイント②】ログイン情報の開示
今回の改正で、ログイン情報も開示の対象になることが明文化され、その意義は大きいです。
これまで、例えばX(旧Twitter)は書き込み時に使ったインターネット通信の情報は保有しておらず、ログイン時に使った通信の情報しか持っていません。
そのため、ログイン時の情報を開示してもらいたいわけですが、旧法下では明文化されていなかったため争点になり、裁判所によって開示を認めるかどうか判断がわかれていました。
しかし今回、開示の対象になると法律に明記されたため、そこが争点になったり裁判所の判断がわかれることがなくなったので、その意味は大きいと言えます。
【ポイント③】非訟事件化
読者の方にはイメージしづらいかもしれませんが、日々発信者情報開示請求を行う当事務所としては、実はこれが最も大きなメリットではないかと考えています。
非訟事件の場合は、通常の裁判と違って原則非公開です。特に当事務所は、芸能関係等の世間的に注目を集める依頼者も多いため、そういった方たちが安心して手続きを利用できるようになったことは大きなメリットです。
非訟事件として裁判所の中に専門的な部署が設けられ、かつ、非訟事件は通常の裁判より手続きが簡略化されているため、申立てから最終的に開示に至るまでの期間がこれまでの4〜6ヶ月から2〜4ヶ月に短縮されたことも大きなメリットと言えます。
まとめ
2022年10月1日に施行された「プロバイダ責任制限法」の改正法のポイントを解説しました。
施行からしばらく経過し、一定のメリットは感じているものの、まだまだ改善の余地があるというのが現状です。
今後、さらなるブラッシュアップと法改正が望まれます。