名誉毀損した相手に謝罪広告を掲載させる方法とは!?
名誉毀損と謝罪広告の関係は?
誹謗中傷などで名誉が傷つけられたとき、被害者側は加害者側に、正当な理由があれば謝罪広告の掲載を求めることができます。
謝罪広告とは?
謝罪広告とは、簡単にいえば、「相手の名誉を毀損した場合に、毀損事実を認めて謝罪するための広告のこと」です。
相手の名誉を毀損したり相手を侮辱したりした場合、民法709条に基づき、被害者側は加害者に対して損害賠償を求めることができます(ただし時効はあります。損害および加害者を知ってから3年以内とされています)。また、それだけでなく、民法724条に基づいて加害者に対して名誉回復措置を求めることもできます。この「名誉回復措置」のひとつとして、「謝罪広告の掲載」があります。
以前、「謝罪広告の掲載は、憲法19条の『思想・良心の自由(思想・信条の自由ともいわれる。学問や宗教、表現、言論の自由ともつながるもので、基本的人権のひとつ)』に反するのではないか」という議論もなされました。しかし最高裁では、1956年の7月4日に、「事実を告白して、謝罪の意思を表す程度にとどまるものならば合憲である」としました。
そのため、人の名誉を傷つけたことによる陳謝の意を示すための謝罪広告は、比較的よく目にします。
名誉毀損と謝罪広告
謝罪広告は、一般的に、新聞や雑誌などに謝罪の文面として掲載されるかたちが一般的です。謝罪広告の掲載は損害賠償請求とともに行われることもありますし、また判例以降は比較的よく謝罪広告を載せることを命じる判決もだされています。
しかし、「謝罪広告を載せよ、と訴えたら、訴えた側の意見は100パーセント認められる」というわけではありません。
たとえば、「損害賠償金をすでに払っているのだから、謝罪広告の掲載までは認めない」「損害賠償金の支払いまでは認めるが、謝罪広告を掲載しなければ回復できないほど名誉が傷つけられたとはいえない」と判断されることもあります。この場合は、当然ながら、謝罪広告掲載の訴えは棄却されます。
このあたりはケースバイケースといえます。
謝罪広告関連の判例
実際に起こった謝罪広告関連の判例をいくつか見ていきましょう。
謝罪広告事件
俗に「謝罪広告」と呼ばれるものが、1956年に起きました。これは、上で述べた「謝罪広告の掲載は良心の自由に反するか」を議論したものです。
これの事件概要は以下の通りです。
1. AとBは、ともに衆議院選挙に立候補した立候補者である
2. Aが、「Bは昔公職についていたときに汚職を行った」と新聞に流布した
3. BはAに対して、名誉毀損の訴えを起こした。またこの訴えは、Bの勝訴に終わった
4. 裁判所はAに対して、「新聞に謝罪広告を掲載せよ」と命じた
5. しかしAは、「それは良心の自由を侵害する」として上告した
しかし、このAの訴えは退けられました。裁判所は、「たしかに謝罪広告の掲載を命じることは良心の自由を不当に制限するものである」としました。しかし同時に、「事実を告白し、謝罪をするためにとどまる程度の広告であるならば、良心の自由の侵害にあたるものではない」と判断したのです。
参考: 昭和28(オ)1241 謝罪広告請求(裁判例情報)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57386%7C
ニフティ事件
一方、謝罪広告の掲載までは認められなかった事件もあります。それが「ニフティ事件」と呼ばれるものです(1997年に第一審判決が出ています)。このニフティ事件は、「発信者だけでなく、プロバイダ側に対しても名誉毀損の共同責任を認めた事件」としても有名ですが、同時に、「謝罪広告の掲載を求めるのは妥当か不当か」を問うた裁判でもありました。
事件の概要は以下の通りです。
1. AがBに対して、ニフティサーブのフォーラムを使って誹謗中傷行為を行った
2. BはAに対して、名誉毀損の訴えを起こした
3. また、BはAに対してのみならず、ニフティサーブのシステム・オペレーターに対しても共同責任があると訴えた。また、ニフティサーブ側に謝罪広告の掲載を求めた
4. Aの名誉毀損と、ニフティサーブの落ち度は認められた
この裁判では、加害者側だけではなく、ニフティサーブ側にも責任が認められたのです。
しかし、「謝罪広告の掲載」については、裁判所から「認められない」という判断が出されました。
これはシステム・オペレーターには、たしかに条理上の不適切な投稿の削除義務はあるものの、法的な監視・削除義務はないと判断されたことによるものです。法的な削除義務がないのですから、「謝罪広告の掲載までを求めるのは不適当である」とされたわけです。
参考:平成9(ネ)2631 損害賠償・反訴各請求控訴事件,同附帯控訴(裁判例情報)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/167/000167_hanrei.pdf
週刊誌記事でベンチャー企業会長への名誉毀損事件
もう一つ、謝罪広告の掲載までは認められなかった事例を取り上げましょう。2001年から2003年にかけて行われた裁判です。
この事件概要は以下の通りです。
1. 週刊誌Aが、ベンチャー企業の会長であるBの名誉を毀損する記事を載せた
2. BはAに対し、名誉毀損による損害賠償の請求と謝罪広告の掲載を求めた
この結果、裁判所は「名誉毀損による損害賠償の請求」を認め、Aに対して損賠賠償金を支払えと判決を下しました。B個人に対しての支払いと同時に、Bが会長を務める会社に対しての支払い命令が下されたのです。
しかしながら謝罪広告に関しては、『謝罪広告を掲載しなければ原告らの損害を補填することができにあとの事情までは認めることができない』(引用:日本ユニ著作権センター「光通信会長の名誉毀損事件」http://www.translan.com/jucc/precedent-2003-07-25.html)として、謝罪広告の掲載を求める訴えを棄却しました。
私たちは、たびたび新聞などに載せられている謝罪広告を目にします。なかには大きな話題と問題になったものもあります。このため、「名誉を毀損された場合は、被害者は加害者に対して、謝罪広告を掲載することを載せられる」と考えてしまいがちです。しかし実際には、「謝罪広告の掲載は、認められることもあれば認められないこともある」といえます。これはケースバイケースなのです。「損害賠償金の支払いまでは認めても、謝罪広告の掲載までは認められない」と判断されることもあります。
まとめ
だれもが手軽に自分の意見を発信できるようになった今、誹謗中傷や侮辱行為を受けたという事案は比較的よく目にするようになりました。その誹謗中傷や名誉毀損が著しいとき、また許しがたいと思われるものであるとき、人は裁判を起こし、相手に罪を償わせようと考えます。そのうちのひとつが、「損害賠償請求」であり、「謝罪広告の掲載」です。自分自身が名誉毀損の被害者となったときは、名誉の回復のために、謝罪広告の掲載を要求することを検討するのもよいでしょう。
ただし、謝罪広告の掲載を求めたからといって、それが必ず認められるというわけではありません。場合によっては、「損害賠償請求は認めるものの、謝罪広告の掲載までは認めない」とされることもあります。
もっとも、最終的に謝罪広告の掲載が認められるにせよ認められないにせよ、1人だけで裁判を戦っていくのは大変なものです。弁護士に相談して、一番良い方法を考えていきましょう。弁護士は、悩むあなたに寄り添い、傷つけられたあなたの名誉を回復するために動きます。