メールで執拗な嫌がらせや誹謗中傷をしたら罪になる?
メールで嫌がらせや誹謗中傷をしたら罪になる?
メールなどの個人的なやりとりの手段を用いて、罵倒や誹謗中傷をされた場合は罪に問われるのでしょうか。また、損害賠償請求はできるのでしょうか。
それらについてそれぞれ解説していきます。
メールでの嫌がらせや誹謗中傷について刑事責任を問えるか ?
まず結論からいえば、刑事責任の追求について、メールという手段で誹謗中傷をされたとしてもそれをもって「名誉毀損である」とするのは非常に難しいといえます。特に相手が匿名であればなおさらです。
これは、「名誉毀損」を成り立たせるための法律の要件に関係します。名誉毀損罪や侮辱罪 は、内容の真偽にかかわらず、相手を公然と、社会的評価を下げるような発言を広めたことで問われる罪です。
ここで重要になるのが「公然と」という部分です。つまりこの罪は、多数の人が認識できるような状態で行わなければ成立しないのです。よって、個人間のやりとりで、相手から「お前は不倫をしている!」「お前はバカだ!」などの言葉を投げかけられたとしても、それによって名誉毀損罪や侮辱罪が成立する可能性は極めて低い といえます。「少人数しかいないSNSでの発言でも、そこから広がっていく可能性が高い」と判断された場合は名誉棄損罪や侮辱罪が成立することもあります が、1対1のやり取りでこれが成立する可能性はほとんどありません。
また、相手が匿名であった場合、相手を特定するのが難しいという問題もあります。
民事事件で送信者が匿名の場合、相手の特定が困難な理由
それでは民事で損害賠償請求を行うことは可能なのでしょうか。
実はメールでも苦痛を伴う誹謗中傷であれば損害賠償請求できる余地はあります。ただし、発信者が特定できる場合であって、もし匿名で送られてきた場合には話が違ってきます。
匿名で送られてくるメールは、発信者を特定することは極めて困難なのです。その理由はいくつかあります。
匿名のメールを特定するのはほぼ不可能
発信者情報開示請求を行う根拠は、プロバイダー責任制限法になります。この法律の発信者情報の開示対象は、「情報の流通によって」権利侵害される必要があるのですが、メールによる1対1でのやり取りの場合は、情報の流通がないので要件が成り立ちません。
このように、送信者の特定が困難であるため、誹謗中傷などの行為に対する慰謝料請求、つまり損害賠償請求は行えないということになります。
メールの送信相手が分かっている場合の対応は?
なお、メールを送信した相手が分かっている場合は、相手に対して簡易書留など配達記録が残る手紙などの形で、嫌がらせや誹謗中傷をやめるように「お願い」をする、というような手段があります。この場合は個人で行うのではなく、弁護士などにお願いすることも有用です。
また、冒頭に書いたように苦痛を伴う誹謗中傷については損害賠償請求を行える可能性がありますので、裁判や示談に持ち込むという方法も考えられます。
刑事事件では立件可能な理由
メールでのやり取りの場合、上記に述べた理由もあり、名誉毀損や侮辱罪に問うことは困難です。
しかし、メールの内容によっては脅迫罪などの刑事事件にすることもできます。
脅迫罪は親告罪ではなく、非親告罪にあたるもので、たとえ本人が刑事告訴を行わなかったとしても、警察が加害者側を逮捕することができます。
脅迫罪は、刑法第220条に定められているもので、
1 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
(強要)
引用:e-Gov
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045
とされています。つまり、「殺してやる」「放火してやる」などのようなことを書いたメールを送れば、メールだけでも脅迫罪が成り立つ可能性があるのです。
また、業務妨害も刑事事件として扱われます。メールを使って会社の業務を妨害するなどした場合は、これも罪に問われます。
メール送信で逮捕された事例
実際に、メール送信で逮捕されたケースもあります。
岡山城爆破予告で威力業務妨害罪
岡山城と後楽園に爆弾を仕掛けた、としてメールを送った人間が逮捕されています。威力業務妨害に問われたもので、「3か所にダイナマイト爆弾を仕掛けた、解除できるかな?」などと挑発的なメールを送った43歳の男性が逮捕されました。
参考:岡山城爆破予告の男逮捕 威力業務妨害容疑―県警
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019120500706&g=soc
複数回のメール送信でストーカー規制法違反
また、60代の女性にショートメールなどでストーカー行為をした男性が捕まる事件も報告されています。
これはストーカー規制法違反によって罪に問われたものです。
参考:60代女性にストーカー行為で71歳男を逮捕 宮城県警
https://www.sankei.com/affairs/news/191210/afr1912100031-n1.html
不倫交際相手に脅迫メール、恐喝未遂容疑で逮捕
「既婚者であることを内緒にされて付き合っていた。既婚者だとわかり腹が立ち、慰謝料を請求しようとした」ということで、交際相手に金銭を渡すように請求した女性が捕まった事件もありました。これは恐喝未遂事件として検挙されています。
参考:板橋区議恐喝未遂容疑で女逮捕 「既婚隠され悔しい」―警視庁
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019121500207&g=soc
ここで挙げたのはほんの一例です。ここから学ぶべきことは、「特定が難しく、また不特定多数に対して触れ回ったわけでなくても、内容によっては刑事事件として扱われることがある」という点です。
たしかにメールは情報開示請求や個人の特定が難しいものではありますが、だからといって「何をしても良い」「何をしても罪には問われない」というものではないのです。
まとめ
匿名アカウントを利用してメールで発信者による誹謗中傷が行われた場合、 現在の日本では相手のことを特定することは極めて困難です。しかしその発言が極めて危険で攻撃的なものであったり、またメールという形態はとっているものの多くの人に広がる可能性が高いものであったりする場合は、別の方向からアプローチし、相手に刑事罰を科すことも可能になってきます。
ただ、このような問題への対処は、一人でやるにはあまりにも大変ですし、またあまりにも危険です。相手がだれであるかわかっている場合は話し合いで解決することもありますが、それも当事者だけでやろうとすれば危険な目にあいかねません。
しかし弁護士を間に入れて、弁護士と一緒に話し合いの場を持てば、解決できる確率は高くなります。第三者が入ることで冷静になることもできますし、弁護士が入ったことで事の重大さを理解する人間もいるからです。
また、刑事事件化して戦っていくことを考えるときにも、弁護士は大きな力となります。
ITに強い弁護士と相談して、メールによる誹謗中傷と戦っていきましょう。