名誉毀損罪と侮辱罪|具体例で見る違いと対処法
名誉毀損罪と侮辱罪の違いは『事実の摘示にあたるかどうか』とされています。具体的な事実をとりあげたうえで、相手に対し誹謗中傷などを行った場合は名誉毀損。事実を取り上げずに抽象的に相手の悪口を言った場合は侮辱にあたるとされています。
この記事では、名誉毀損罪と侮辱罪の違いについて、具体例とともにご紹介します。
名誉毀損罪と侮辱罪の違いと具体例
名誉毀損罪と侮辱罪はどちらも人を誹謗中傷した際に問われるものです。
これらは刑法で定められた刑罰で、それぞれ罰金や懲役・禁錮などの量刑・刑種に差が出てきます。では、一体なにが違うのでしょうか。
この項目では、名誉毀損罪と侮辱罪の違いや具体例などをご紹介します。なお、ここでは主に刑法での扱いについてご紹介します。刑法と民法での取扱は『名誉毀損と侮辱の刑事・民事による違い』で後述します。
名誉毀損罪|具体的な事実に対する誹謗中傷
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元: 刑法
名誉毀損罪には、以下の要件があります。
- 公然の場であること
- 社会的評価を低下させるものであること
- 内容の真偽が分かる状態であること
そのため、具体的な事実であったり、それが真実であるかを確かめることができる状態であったりすると名誉毀損罪に問われる可能性があります。
《具体例》
- 「〇〇会社の役員と受付嬢は不倫している」
→会社に訪問したり、ホームページなどから確認ができる - 「芸能人の〇〇は六本木のクラブでIT企業社長と夜遊びしている」
→クラブを調べることで確認できる、芸能人としての営業妨害に繋がる
このように具体的な事実をとりあげ、個人や団体の社会的地位や信用を損なうような場合、名誉毀損罪にあたる可能性があります。
名誉毀損罪の特例
名誉毀損は以下の場合、免責(罪に問われない)となります。
- 公益の利害に関わるものか
- 公益となるものか
- 真実であるかどうか
また、亡くなった人の場合、名誉毀損にあたる内容が虚偽でなければ、名誉毀損罪には問われません。
侮辱罪|抽象的な罵倒や悪口
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
引用元: 刑法
侮辱罪は、事実をとりあげなくても、誰もが見聞きできる場で個人や団体を誹謗中傷した場合に問われる罪です。
《具体例》
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このように事実をとりあげていない誹謗中傷は、侮辱罪にあたる可能性があります。
信用毀損および業務妨害|データ改ざんやネガティブキャンペーン
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元: 刑法
名誉毀損罪や侮辱罪のほかに、人を誹謗中傷した際に問われる罪として、信用毀損および業務妨害というものもあります。
例えば、芸能人や団体、企業の社長などに対し、相手を貶めるために嘘の噂を流した場合などに問われる可能性があります。
個人情報の漏えいはプライバシー権の侵害
本人の意図に反して、氏名や住所、勤め先(学校)などの個人情報をSNSや掲示板などに投稿した場合、プライバシー権の侵害にあたります。
プライバシー権の侵害は罪には問われませんが、民事上の損害賠償請求の対象となる不法行為です。
名誉毀損と侮辱の刑事・民事による違い
ここまで名誉毀損罪と侮辱罪の違いについてご紹介してきました。
名誉毀損罪や侮辱罪は『罪』なので、刑法で定められた刑罰などの責任が問われます。一方、誹謗中傷トラブルでは『名誉毀損による慰謝料請求』という言葉を耳にすることもあります。
慰謝料請求などの損害賠償は、民法に定めれた『不法行為による損害賠償』の責任が問われます。
刑法と民法では訴えの目的や手続きなどが全く違うのです。
この項目では、名誉毀損や侮辱の刑事・民事の違いについてご紹介します。
相手を罪に問う場合は刑事告訴
相手を罪に問うための刑事告訴は、告訴状を警察所に提出し、捜査機関による判断を仰ぐことです。
名誉毀損や侮辱は親告罪といって、被害を受けた人が自ら申し出ない限り、責任追及をすることができません。
また、刑事告訴の場合、刑事責任を問うことが目的のため、慰謝料請求は別の話になります。ただし、示談を相手から提案された場合は、示談金という形で慰謝料を受け取るケースもあります。
損害賠償請求は民事訴訟
名誉毀損や侮辱による慰謝料や損害の賠償請求をする場合は、民事訴訟になります。
民法では損害賠償を以下のように定めています。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元: 民法
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
引用元: 民法
アンチ・誹謗中傷にあった場合の対処法
掲示板やSNSでは、名誉毀損や侮辱にあたる心無い投稿をされることもあります。
このとき、感情に任せて『名誉毀損で訴えてやる!』と言っても相手は匿名なのを良いことに、逃げたり他のサイトで繰り返し誹謗中傷をしたりすることも考えられます。
この項目では、掲示板やSNSのアンチ・誹謗中傷に対して有効な対処法をご紹介します。
相手に『応じない姿勢』を見せる
アンチ・誹謗中傷には、『応じない姿勢(無視)』が重要です。それで暴言や誹謗中傷が収まれば、問題解決に繋がりますし、無視することで相手の言動が一方的なものであることが証明できます。
一方、反論したり逐次反応したりすると、かえって口論になってしまう可能性があります。場合によっては、喧嘩両成敗となります。
投稿の証拠を保存しておく
一方的なアンチ・誹謗中傷が継続して行われた場合、投稿内容などの証拠を集めておきましょう。
- 投稿のURL(コピーサイト、まとめサイトなども含む)
- 投稿内容のスクリーンショット
これらの証拠は削除依頼や誹謗中傷の中止要求をする際に必要になります。
サイト運営者に削除依頼をする
相手の誹謗中傷が収まりそうにない場合、サイト運営者に投稿の削除依頼を行うことも考えましょう。
削除依頼はサイトの問い合わせ窓口などに以下のことを伝えます。
- 誹謗中傷が行われている投稿のURL
- 投稿内容がサイトのガイドラインに違反していることや権利侵害にあたることの説明
- 上記の理由から削除をお願いしたい旨
なお、削除依頼をする際は必ずサイトの利用規約やガイドラインなどを確認しましょう。
弁護士名義も可能
投稿の削除依頼は、弁護士に依頼をして弁護士名義で行うことも有効です。
サイトによっては、個人名義での削除依頼に応じないところもあります。理由としては、個人の利用者が主張する権利侵害が『本当に法律に触れる恐れがあるのか』という点について、判断が十分に出来ない場合があるためです。
その際、弁護士に相談し、弁護士名義で削除依頼を行うことで具体的に『投稿内容のどの部分が、どういった法律に触れる可能性があるのか』を的確に指摘することができます。
投稿者の特定を行う
サイト運営者がサイト内での投稿内容に責任を取らない場合で、投稿者への責任追及を検討している場合は、まず投稿者の特定が必要になります。
投稿者の特定には、発信者情報開示請求という手続きをします。
これには任意に開示してもらうものと、裁判所の命令によって開示させるものがあります。
訴訟などの法的措置を行う
投稿者の特定によって、訴える相手方の氏名・住所が分かれば、損害賠償請求などの訴訟を起こすことができます。
訴訟では、アンチ・誹謗中傷行為による名誉毀損あるいは侮辱に対する慰謝料請求などを行うことになります。
名誉毀損による慰謝料はケース・バイ・ケースですが、一般人で10万〜50万円。法人や芸能人の場合は50万〜100万円程度が相場といわれています。
まとめ
名誉毀損と侮辱は、どちらも個人や法人に対する誹謗中傷行為です。誹謗中傷は当事者間で解決しようとすると、トラブルがかえってこじれてしまう可能性もあります。
もしも誹謗中傷被害にあった場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。