誹謗中傷対策マニュアル
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2020.03.28

ネット問題

ヘイトスピーチ(憎悪表現)は表現の自由or誹謗中傷?徹底解説

「○○人は国へ帰れ!」と言いながら、デモをしている人たちを見かけました。怖いですよね。取り締まれないのでしょうか。
いわゆる「ヘイトスピーチ」と呼ばれるものだね。2016年に定められた「ヘイトスピーチ解消法」も含めて解説しよう。

 

ヘイトスピーチは表現の自由か誹謗中傷か?

近年、インターネットの普及とともにヘイトスピーチ行為が頻発しています。表現の自由とヘイトスピーチはどのような関係にあるのか解説します。

ヘイトスピーチとは?

ヘイトスピーチとは、特定の人種や民族であることなどを理由に、一方的に属する集団や社会から追い出そうとしたり、攻撃・脅迫したりするなどの言動のことを指す言葉として用いられています。ただし明確な定義はありません。もともとは、Hate(憎む、嫌う)とSpeech(発言)の合成語であり、日本では「憎悪表現」などと訳されます。

例えば、「○○人は出ていけ!」「○○人を叩き出せ!」「○○人を殺せ」と言った言動が該当します。

このような言動は被害者に悲しみや恐怖を抱かせるとともに、特定の人種や民族などに対して差別を生む恐れがあり、2016年に「ヘイトスピーチ解消法」が施行されました。当法律の中ではヘイトスピーチについて次のように規定されています。

ヘイトスピーチ解消法 第2条

この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国もしくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉、若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮辱するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する(人をあおり立てて、ある行動を起こすようにしむけること)不当な差別的言動をいう。

ちなみに「ヘイトスピーチ解消法」の正式名称は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」と言います。ヘイトスピーチ解消法は、人権教育や啓発活動を通じて解消に取り組むことを定めた理念法であり、罰則はありません。法務省を中心に『ヘイトスピーチ、許さない』をキャッチコピーにポスターや啓発DVDを作成したり、法務省YouTubeチャンネルで啓発活動を行ったりといった取り組みがなされています。

▼ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動(法務省)
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html

 

表現の自由とは?

ヘイトスピーチに関する法律がある一方で、日本国憲法では表現の自由、言論の自由についても保障されています。

憲法21条

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

皆さんご存知のように日本国憲法は、国の最上位の法律です。つまり、他のどの法律や制度によっても害されることはありません。表現の自由は民主主義の基礎となる根本的な権利であり、表現の自由は誰にも侵害をされてはいけないのです。

表現の自由は「自己実現の価値」と「自己統治の価値」を有しています。

人は自分の考えや想いを発信し、それを聞いた人の意見を受けさらに考えを深め、人格的成長をしていきます(自己実現の価値)。また私たち国民は政治的な意思決定をする際、自由な発言や討論が欠かせません(自己統治の価値)。

つまり表現の自由は、民主主義の根本的な基礎となる権利です。このため表現の自由は、人権体系の中でも「優位的地位」を占めるものとされています。

ヘイトスピーチと表現の自由

ヘイトスピーチに該当するような行為を行うと、相手に対する名誉毀損などが成立する場合がありますが、これは「表現の自由」への不当な制限なのではないかという疑問もあるでしょう。

表現の自由の中には、名誉毀損的な表現も含まれますが、これらを無制限に保障しているわけではありません。もし無制限に保障してしまうと、名誉を毀損するような表現により、今度は人権が侵害される恐れがありますね。

名誉棄損罪を定めた刑法第203条の2で表現の自由と名誉の保護について規定されています。

第230条の2
1. 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2. 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3. 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

つまり名誉毀損的な表現であっても、公共の利害に関する事実であり、公益を図る目的で、内容が真実であると証明されれば処罰されません。発言の内容が正当な事由や根拠のない悪口、嫌がらせであり、他人の名誉を毀損するものであれば名誉毀損などが成立します。

ヘイトスピーチにおいて適用される刑罰は?

前述した通り「ヘイトスピーチ解消法」には罰則がありません。ただし、一般的にヘイトスピーチとされる特定人物や特定団体に対する偏見に基づく差別的言動は、信用毀損罪、名誉毀損罪、侮辱罪などに該当します。またヘイトスピーチの対象が、民族や国籍、宗教、性的指向等の集団だった場合、名誉毀損罪や侮辱罪には該当しないものの、差別的言動の被害が具体的になれば、事例によっては脅迫罪や業務妨害罪になる可能性があります。

①名誉毀損(刑法第230条)

公然と事実を適示し,人の名誉を毀損した者は,その事実の有無にかかわらず,三年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

②侮辱(刑法第231条)

事実を摘示しなくても,公然と人を侮辱した者は,拘留又は科料に処する。

③信用毀損及び業務妨害(刑法第233条)

虚偽の風説を流布し,又は偽計を用いて,人の信用を毀損し,又はその業務を妨害した者は,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

④脅迫(刑法第222条)

生命,身体,自由,名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

事例

次にヘイトスピーチに関する事例、判例をご紹介します。

京都朝鮮学校公園占有抗議事件

ヘイトスピーチの違法性を最高裁が認めた初めての裁判が「京都朝鮮学校公園占有抗議事件」です。2009年12月から2010年3月、「在日特権を許さない市民の回(在特会)」が、京都朝鮮学校周辺で拡声器を使い「朝鮮学校を日本からたたき出せ」などと怒号を浴びせる街宣活動を行い、学校側が名誉毀損を理由に損害賠償を求めた事件です。

在特会側は、「発言は公共の利害に関する事実の論評だ。違法性はなく人種差別にも名誉毀損にも当たらない」と主張したが、裁判所は「差別意識を世間に訴える意図で、公益目的は認められない」とし、学校周辺での街宣活動の禁止と、約1200万円の損害賠償を命じました。

▼下級裁裁判例 平成22(ワ)2655  街頭宣伝差止め等請求事件(裁判所)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=83675

 

ヘイトデモ禁止命令仮処分

「ヘイトスピーチ解消法」を踏まえた最初の司法判断となったのが「ヘイトデモ禁止命令仮処分」です。ヘイトスピーチを繰り返す団体の主催者の男性が、川崎市内で実施予定だったデモを禁止するように仮処分決定をしました。仮処分を申し立てたのは、同地区にある社会福祉法人「青丘社」です。

2015年11月、2016年1月に、団体の主催者らが在日韓国人居住地域で「朝鮮人を叩き出せ」などと威圧的、脅迫的な発言を繰り返すデモを実施。これがヘイトスピーチ解消法の差別的言動にあたると裁判所により判断されました。裁判長は、ヘイトデモを「人格権に対する違法な侵害行為に当たる」と認定し、その違法性が顕著であれば「憲法が定める集会や表現の自由の保障の範囲外」とも指摘しています。

まとめ

特定の人種や民族であることを理由に、攻撃や脅迫、侮辱する発言や行動をする「ヘイトスピーチ」。日本では憲法で「表現の自由」が認められていますが、正当な事由や根拠のない悪口、嫌がらせといった他人を侮辱、脅迫するような言動は刑事罰の対象となります。

インターネットが普及し、こうした行為を匿名で行う人たちも出てきています。こうした被害を受けた場合は、速やかに警察や弁護士に相談しましょう。

 

弁護士法人ATB
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